「羊と鋼の森」と対をなす、著者の原点にして本屋大賞受賞第一作
第98回文學界新人賞佳作
内容
忘れても忘れても、ふたりの世界は失われない。
新しい記憶を留めておけないこよみと、彼女の存在がすべてだった行助。
「毎日の生活の中での思いで人はできてるんじゃないかと思う」
「よかった。あんた、その意気よ」
なんの意気だよ、と僕は小声でつぶやく。とにかく、人が記憶でできてるだなんて、断固として否定しなくちゃいけない。
(本文より)
登場人物
僕:大学研究室の助手。生まれつき足に麻痺がある。
こよみさん:パチンコ屋の駐車場にあるたいやき屋の女の子。
感想
宮下奈都らしい小説だと思った。
一度読み始めたら止まらない。
シンプルで読みやすい文章、多くは語られないのに魅力的な登場人物。
“短期間しか記憶を留めておけない”となると、ストーリーは涙必須の恋愛話かと思うけど、全くそういうのではない。これは読んでもらわないとわかってもらいないかもしれない。
気に入った一文 ※ネタバレ注意
「役に立つか立たないか、それは本人にもわからない。人によって役に立つものが違うのよ。役に立つ時期も違う。それだから、もし、今、役に立たないと思っても、勉強を放棄する理由にはならない。あたしたちは自分の知っているものでしか世界をつくれないの。あたしのいる世界は、あたしが実際に体験したこと、自分で見たり聞いたりさわったりしたこと、考えたり感じたりしたこと、そこに少しばかりの想像力が加わったものでしかないんだから」