「イノセント」島本理生
「リトル・バイ・リトル」で恋の始まりを知り、「ナタラージュ」で愛の終わりを知りました。私にとって恋愛小説家といえば、島本理生さんです。私よりほんの少し年上の島本理生さんが書く小説ということもあって、主人公の年齢、置かれている状況に共感しやすかったのもります。
「イノセント」は出会い、偶然の再会、幸せな期間、倦怠期と一連の恋愛の流れが贅沢に盛り込まれた、一人の女性と二人の男性の三角関係の小説です。
あらすじ
幼い息子と二人で生きる比紗也はと会社経営をする真田と祭司の如月と出会い・・・仙台、函館、東京を舞台に一人の複雑な過去を抱えた女性を対照的な男性二人が救う恋愛小説。
バラメータ
恋愛度 ★★★★★ 星5つ
好きという感情は行動だけでは伝わらないし、言葉だけでも伝わらないものだと思います。好きな人に「好き」と言われるのは、それはやはり嬉しいことです。
「好きだよ。俺は、君が」
思い返せば最初から好きだったのだ。他人のものだろうと、素っ気なくされようと、急にわけも分からず泣き出されようと。
友情度 ★★☆☆☆ 星2つ
女同士の関係というものは複雑なものです。男が絡むと一瞬にして相手のことを悟ってしまうことがあります。
「(省略)私と違って、あの子は重いわよ。真田君の五百倍くらい」
「そんなに重かったら誰も持てないだろう」
と冗談めかすと、キリコは卵を茹でながら、持てないわよ、と答えた。
「だから、あれだけまわりに男がいるのに、一人じゃない。あの子は」
家族度 ★☆☆☆☆ 星1つ
逃げたくても逃げられないのが家族です。
だめなところを見せれる相手は必要で、それが恋人(いつかは家族)であれば、幸福なことです。
「そうね、俺だけがおまえのだめなところを分かってやれるからなあ。だから、いつも逃げるわりには、ちゃんと戻ってくるもんな。」
イケメン度 ☆☆☆☆☆ 星0つ
真田は会社経営をしている40近い独身貴族の男。見た目にもある程度気を使っていそうだし、軽快なトークは女性からモテるのがわかります。でも、中身が全くのイケメンではない・・・中身が年齢に追い着いていないように感じます。
如月は真田とは見た目も中身も正反対の男。いかにも好青年(好中年?)という感じがします。如月もまた中身が年齢の追い着いていません。中2病のようなところと一途さが合わさって、少し凶器に満ちています。
男性人が私の理想とかけ離れているせいか、三角関係に憧れを抱かず、主人公の比紗也に嫉妬しないで読めました。
オシャレ度 ★★★☆☆ 星3つ
比紗也は美容師という職業柄、ファッションには気を使っています。シングルマザーなので、お金に余裕はない中でH&Mやネットで安くて高く見える服を探したり、パパッとヘアアレンジを済ませます。
キリコは営業トップのバリバリ働く女性です。プラダのバックを持ち、ファッションもアクセサリーもお金をかけていそうです。男勝りのサバサバした性格のキリコは恋をしたことで、服装が変わる可愛い一面も持ち合わせています。
グルメ度 ★☆☆☆☆ 星1つ
比紗也が真田の家で手早く料理を作る様子はさすがママです。
子供がいるときちんと3食ご飯を食べることになり、真田もそういう独身女性にはない、料理好きの女性にはない魅力を比紗也に抱いたのかな?と思います。
感想
私の勝手な恋愛論で、お互いの愛情が深くなっていくと自分の弱さを相手に見せなくてはいけない時がくると思っています。そこを乗り越えないと次の恋愛ステップ(というのがあるのならば)には進めないと思っています。「イノセント」はきちんとそこに向き合い、進んでいきます。いざこざ、すれ違いを経て結ばれるだけではないところが私が島本理生さんの小説の好きなところかもしれません。
島本理生小説の核になる“娘と父親”の複雑な関係も書かれています。比紗也は「だから私はずっと母の分身で、代わりなの」と言います。いくら母親のように家事をこなしたとしても母の分身ではないし、誰かの代わりと自分で言い切るのは悲しいことです。
物語の後半に出会う藤野シスターに比紗也が父親との関係を告げると「かわいそう」と言われ、怒りが突き上げ「かわいそう、なんて、失礼だと思いませんか」と反論します。藤野シスターは「そんなことない。ひどいことをひどいって、かわいそうなことをかわいそうって誰も言わなかったら、本当の愛との区別がつかなくなるから」と返します。藤野シスターの言葉に私自身救われた印象的な場面です。
本のタイトル「イノセント(Innocent)」は、潔白・純粋・無垢という意味があります。如月は学生時代の友人・聖に「生身の人間と死ぬ気で向き合ってみるといいよ」永遠の命は他人を救うためにあり、期待なんて裏切られるんだとと諭されます。身を犠牲にして、比紗也を救う如月こそイノセントのように私は感じました。