藤子・F・不二雄をこよなく愛する主人公の物語
内容紹介
藤子・F・不二雄を尊敬するカメラマンの父・芹沢光が失踪した。父から影響を受け、ドラえもんが好きな高校二年生の理帆子は入院する母のところへ見舞いに通う。高校三年生の別所あきらに理帆子の写真を撮りたいと申しこまれ・・・少し不思議な物語。
目次
プロローグ
第1章 どこでもドア
行き先を告げると(作品「ドラえもん」の中では言わないことも多いが)、ドアの向こうが行き先に繋がり、ドアをくぐれば目的地に行くことができる。
第2章 カワイソメダル
これをつけた動物を見ると、誰でもかわいそうでたまらなくなる。
第3章 もしもボックス
電話ボックスの中の受話器を取り、「もしもこんな世界があったら」と話す。外に出ると、その通りの世界になっている。
第4章 いやなことヒューズ
これを襟首につけておけば、ひどく嫌な時ヒューズが切れたようになって何も感じなくなる。しばらくすれば復活するが、息も脈も止まって気絶した状態になる。
第5章 先取り約束機
これに約束すれば、その結果を先取りすることができる。約束したことは後で必ず実行しなければならない。
第6章 ムードもりあげ楽団
一人の人間について行き、その人物の遭遇する状況やそこでの感情の動きに合わせて音楽を演奏して気持ちを盛り上げてくれる。
第7章 ツーカー錠
二色に分かれたカプセル錠。この薬を分け合った二人の間では、どんな会話もツーカーで通じる。ただし、心に思ったことがすっかり通じてしまうため、嘘がつけなくなる。
第8章 タイムカプセル
なんでも新しいままで保存できるカプセル。たとえばアイスクリームだって一万年しまっておける。
第9章 どくさいスイッチ
独裁者はこれを使って、自分に反対する者、邪魔になるものを次々と消していく。
第10章 四次元ポケット
ドラえもんのおなかについているポケットと同じもの。中が四次元になっていて、何でも入る。ドラえもんは、数々の秘密道具をここにしまって、出し入れする。
エピローグ
登場人物
私の尊敬する藤子・F・不二雄が遺した言葉にこんなのがある。
『ぼくにとって「SF」はサイエンス・フィクションではなくて、「少し不思議な物語」のSF(すこし・ふしぎ)なのです』
芦沢理帆子(少し・不在)
読書好きの進学校に通う高校二年生。藤子先生を真似て、人や物事の性質に言葉を当て嵌め「スコシ・ナントカ」と独特の遊びを楽しんでいる。
場の当事者になることが絶対になく、どこにいてもそこを自分の居場所だと思えない。それは、とても息苦しい私の性質。
好きな本ベスト3は石ノ森章太郎の「サイボーグ007」、ベスト2は松本零士の「銀河鉄道999」、ベスト1は藤子・F・不二雄の「ドラえもん」
別所あきら(少し・不健康→少し・フラット)
理帆子に写真のモデルを頼んできた新聞部の高校三年生。肌が白く細い腕が不健康に思えたが、とてもニュートラルで、人に取り込まれず、話を聞くのが上手い。
若尾大紀(少し・不自由→少し・腐敗)
理帆子の元彼氏の司法浪人生。現在の世の中や社会システムでは彼のピュアさは生きづらいと感じていたが、今は腐りだしていると理帆子は思っている。
芦沢光(少し・藤子先生)
五年前に失踪した有名カメラマンの理帆子の父。
芦沢汐子(少し・不幸)
病魔に蝕まれ、夫が五年前に失踪。不運や不幸の影が差す理帆子の母。
松永純也(少し・不完全)
世界的に有名な指揮者で理帆子の父の幼馴染。完璧過ぎ、人間味に欠けることがただ一つの欠点。既婚者で詩織という娘がいる。
松永郁也(少し・不足)
ドラえもんのキルティングバックを持つ喋らない小学校四年生の少年。
美也(少し・フリー→少し・フレンドリー)
あんまり何かの制約を受けている気がしない「アタシバカなんでぇ」が口癖の理帆子の友人。友達想い。
カオリ(少し・ファイディング)
よりよい男を求めて飲み会を渡るチューンスモーカーの理帆子の友人。
加世(少し・憤慨)
不満を洩らしながらボルテージを高める生徒会長で理帆子の友人。
立川(少し・不安)
こうあるべきだという自分の中で作り上げた型に当て嵌まろうと必死で、いつもうまくいかない理帆子の友達。
久島多恵(少し・フレッシュ)
優しげな容貌、歯切れのいい口調の郁也の家政婦。
宮原(少し・普通)
J2サッカー選手の爽やかイケメン。
ナオヤ(少し・不揃い)
飲み会で知り合った男性。
オススメ度 星2つ ★★
恋愛度 星2つ ★★☆☆☆
第5章 先取り約束機
好きだった人が壊れていく、ストーカーになっていくというのは信じたくない事実。
「女のストーカーは相手に対する曲がった愛情によってそうなる。だから要素としては、思い込みの強さや突拍子のなさがどの程度かってことになると思う。そして、男のストーカーというのは、自尊心の高さによってそうなる」
友情度 星3つ ★★★☆☆
第8章 タイムカプセル
友達だから教えて欲しかった、頼って欲しかった、嘘をついて欲しくなかった。理帆子が思っていた以上に友人は理帆子のことを友達だと思い、想ってくれていた。
「今まで気付かなくてごめん」
私は黙って首を振った。そう言ってもらえるような資格は、私にはなかった。私はどこにいてもその場所のことを馬鹿にし続けた。あなたたちに優しくしてもらう価値なんか何もない。
家族度 星4つ ★★★★☆
第8章 タイムカプセル
母と娘という関係は複雑である。とても大切な分、憎く許せないところもあうものだ。私はまだ母の気持ちというのはわからないけれど。
写真集の名前は『帆』。
私の名前から一文字抜いたタイトル。母が選りすぐった父の写真の横に、彼女の書いた短い文章が続く。エッセイとも、メッセージとも取れるが、一番いい言い方は多分ラブレターだ。あの母がどんな顔してこれに取り組んできたのかと思うと、私にはおかしい。おかしくて笑えて、笑いながら、私は泣いた。止めどなく涙をこぼし、声を上げて泣いた。
イケメン度 星2つ ★★☆☆☆
宮原くん。
理帆子は宮原くんをいい意味で普通のイケメンと称しているが、実在したら真のイケメンのような気がする。いい意味で普通の。
小説では別所あきらのような存在がイケメンなんだよなー。
オシャレ度 星1つ ★☆☆☆☆
宮原からティディベアモチーフのティファニーのネックレスをプレゼントされる理帆子。3万円くらいするらしい。
付き合ってもないのにティファニーをプレゼントされたら私はひいてしまうけど。
父の書斎があるのはオシャレに感じる。しかも趣味の本がたくさん陳列されているのは羨ましい。私も欲しい。
郁也の住む必要以上の物がない広い家もいいなぁ。
グルメ度 星1つ ★☆☆☆☆
第6章 ムードもりあげ楽団
多恵が郁也の誕生日に作るご馳走。
子供が好みそうと理帆子は言うが、大人である私の好みでもある。
鶏のからあげとハンバーグと、パスタはミートソースとナポリタンの二種類。ラザニアとポテトフライ。子供好みそうなメニューだった。
澤水堂の林檎ジャムのワッフルも美味しそう。
感想
西加奈子、宮下奈都作品をほぼほぼ読み終えてきたので、辻村深月作品に手を出し始めている。
辻村さんの作品はボリュームが多い小説が多いけれど、読み始めるとどんどん次のストーリーが気になって、一気に読み終えてしまう。
一通り読み終えた後に気になった部分、さらりと読んでしまった箇所を読み返している。
前回読んだ「ゼロ・ハチ・ゼロ・ナナ」もだけれど、主人公の女性はルックス、成績が良く、ある程度裕福なカースト制の上位に属している。そのせいか本人は意識せずとも他人を少々下に見ている傾向がある。その分家庭環境が・・・と言いたいところではあるが、どの幸せそうな家庭にも何かかしらの問題はある(全く問題のない家庭なんて存在するのだろうか?)と思ってしまう分、気に触る人には嫌味な人物だろう。私は単純に羨ましいと思ってしまったが。
序盤から付箋があり、少しずつ回収していくミステリー要素のある小説。最終的には家族ものの「少し・ファンタジー」という感じだ。第8章のタイムカプセルは理帆子への母親の愛情が溢れ、電車の中で涙ぐんでしまった。
各章のタイトルの通り、ドラえもんのひみつ道具が様々登場する。日本の国民的漫画・アニメでもあるドラえもんは誰でも一つは知っている道具が絶対にある。私が知っているひみつ道具の中で唯一恐怖だと感じたのは第9章のタイトルの“どくさいスイッチ”だ。自分以外誰もいない世界というのは一番の恐ろしい。嫌な人も好きな人も含めてこの世は成り立っている。
ドラえもん以外にも小説の中には様々な本、漫画、音楽が出てくる。読んだこと、聴いたことのある名前が登場するのは嬉しいものである。
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