芥川賞作家・羽田圭介解説の職場小説「『ジューシー』ってなんですか?」山﨑ナオコーラ

 

 

「『ジューシー』ってなんですか?」山﨑ナオコーラ

本のタイトルは「『ジューシー』ってなんですか?」まるでグルメ本のようなタイトル。あらすじには“職場小説”と書いてあるし、カバーもいかにも“仕事!”って感じの写真。このミスマッチさ、ズレあ気になって読むことにした。

仕事の小説といえば、池井戸潤さんの半沢直樹シリーズのような“上を目指す”内容が多いので、バリバリ!働くわけでもなく、サボっているわけでもなく、おそらく仕事をしている大部分の人が当てはまるだろう職場での時間が書かれている。仕事している中での出会いや感動、成長していく小説ともちょっと違う珍しい職場小説だと思う。

 

「『ジューシー』ってなんですか?」 (集英社文庫)

「『ジューシー』ってなんですか?」 (集英社文庫)

 

 

あらすじ

「『ジューシー』ってなんですか?」

正社員の寝てない自慢をする佐々木、小型船を買った別所、入社してきた美人の津留崎。非正社員のこそこそ小説を書いている岸、仕事は出来が遅刻常習犯の魚住、秋葉原にいそうな広田。25歳から27歳の男女6人は大きな会社の小さなチームとして、毎日深夜まで地味な仕事をしている。立場は微妙に違うけれど、同じ職場の同僚として働く6人の“職場小説”。

「ああ、懐かしの肌色クレヨン」

パン屋で働く鈴木は男から手をギュッと握って貰ったことがない。チュートリアル徳井さんに似ている職場の先輩・山田さんと昼間のデートをすることになり・・・。

 

バラメーター(「『ジューシー』ってなんですか?」)※ネタバレあり<

恋愛度   ★☆☆☆☆ 星1個

同僚にも恋愛話することありますよね。そのくらい程度の恋愛度。

岸は同棲している彼氏のことを「一緒に住んでいる人」と言う。

“彼氏”とは言えない。

私もその気持ちよくわかる。小っ恥ずかしいというか何というか。

文章ではいくらでも書けるのに「夫」「旦那」とはまだ口に出して言えません。

友情度   ★☆☆☆☆ 星1個

同僚ではあるけれど、同僚という言葉だけだと余所余所しい。

でも、友達ではない。

仕事をする仲間。

家族度   ★☆☆☆☆ 星1個

広田は父親から「おまえはこじきになるぞ」と電話で言われた。

正社員ではないからだろう。

親だからこその心配電話。それが煩わしい。

イケメン度 ★★☆☆☆ 星2個

広田の見た目はアキバ系

平田の良さは半年一緒に過ごさないとわからないと岸も言っている。

言葉を選んで話すところは好きだな。

ふざけている魚住も仕事が出来たり、将来のことを案外考えているところはギャップがあっていい。私は変わり者とギャップに弱い。

オシャレ度 ★☆☆☆☆ 星1個

人が髪をいじるとき、いじる前といじった後でまったく髪型が違っていると本人は思っているものだ。しかし傍目にはまったく変わらない。

オシャレとはまさに!な文章だと思う。

グルメ度  ★☆☆☆☆ 星1個

安いからという理由で食パンを食べている広田。

差し入れの「ジューシーハムサラダ」。

どれもすごく美味しいわけではないと思う。食欲がそそるわけでもない。

それでも気にかかるワードになっている。

感想

仕事をする中でやる気が入る時や一息、緩んでしまう時も一日、一週間の中でも必ずあると思うですよね、どんな仕事にもどんな人にも(たぶん)。そういう時間って、あまりにも普通過ぎる日常で、日記にも書かないし、過去を振り返った時にも思い出さないひと時だと思う。それを見事に描いてしまった小説。

ある日突然、ヒモが付いた社員証が配られ、首からさげ常時携帯するようにとお達しがある。これは私にも経験がある。非正社員は給料も責任も違うのに正社員と非正社員は傍から見れば区別が付かない。気にしなければ気にならない些細なことだけど、気にするととてもデリケートで複雑な問題だと思う。現代の雇用形態が様々だからこその描写。

解説はTVにもよく出演されている芥川賞作家の羽田圭介さん。気になりつつも私はまだ作品を読んだことがない。