30代のクズを救えるのは、日本で西さんだけ。
マイナス思考の僕が泣きましたから。
—— オードリー 若林正恭
凄かった。
西加奈子の全部がここにある。
—— ピース 又吉直樹
内容
<上>
1977年5月、圷歩は、イランで生まれた。父の海外赴任先だ。チャーミングな母、変わり者の姉も一緒だった。イラン革命のあと、しばらく大阪に住んだ彼は小学生になり、今度はエジプトへ向かう。後の人生に大きな影響を与える、ある出来事が待ち受けている事も知らずに―。
<下>
父の出家。母の再婚。サトラコヲモンサマ解体後、世間の耳目を集めてしまった姉の問題行動。大人になった歩にも、異変は起こり続けた。甘え、嫉妬、狡猾さと自己愛の檻に囚われていた彼は、心のなかで叫んだ。お前は、いったい、誰なんだ。
感想
里帰り出産の為に実家に帰省しました。田舎の図書館には古い本しか置いていないイメージでしたが、最新作も数多くありました。そして、借りる絶対数が少ないので、超最新作でなければ予約なしで読めます。私の住む町では「サラバ(上)(下)」が読めなかったのですが、ここにきてやっと読めました!
賞を受賞し、数々のメディアで紹介されるのが納得の作品
西加奈子さんはどの本を大きな外れなく面白いと思いますが、「サラバ」は圧倒的に面白い、凄いです。今年はあまり小説を読めていないのですが、私の個人的な2017年のベスト本ランキングに絶対入ると思います。今年これ以上の本に出合えるだろうか?というくらい気に入りました。
主人公と同じように女たちに苛立つ上巻
この長編はどういうストーリーなのか見当もつかない出だし。イラン、エジプトと馴染みのない国での生活は興味深く、いつの間にか引き込まれていきます。
上巻はとにかく超個性的な女性(母と姉)に振り回され、主人公を不憫に思います。一見、帰国子女+超個性的な家族構成は珍しいように感じますが、家族と学校が全ての世界のでは、周りにいる人たちの影響力は大きく、自分の力ではどうにも出来ないことがあるというのは主人公だけではないと思います。
女たちと同じように主人公に苛立つ下巻
東京の大学に進学した主人公は私より少し上の世代です。就職氷河期、フリーターという言葉が生まれた世代でもあり、下巻の主人公は時代背景にも強く影響されます。上巻では考えが大人びていた主人公の心の成長が急激に止まります。
私が女ということもあるかもしれませんが、上巻では女たち目線で主人公をみて、やきもきします。主人公のような男性は今の世の中とても多いように感じてしまうのは私だけでしょうか。
20、30代の男性に読んでほしい本
ほぼ女性が主人公の西加奈子小説では珍しく男性が主人公の本です。西加奈子を読んだことがない男性にも長編ということを除けば比較的読みやすいと思います。
でも私は私を信じる。私が私でい続けたことを、信じているの。
だからもしそれが間違いだったとしても、もう私は壊れないわ。私は誰かに騙されていたわけでもない。私は私の信じるものを、誰にも決めさせたりはしないの。
私が男性作家の本を読まず、偏った本しか読んでいないからかもしれませんが、男性が主人公でダイレクトに人生観を訴えてくる現代の本は少ない気がします。女性が主人公は多いですけどね。揺れてる男性(女性も)は読んでみて欲しい小説です。
著書紹介
【西加奈子(にし・かなこ)】
1977年5月、イラン・テヘラン市生まれ。大阪育ち。
2004年に「あおい」でデビュー。「通天閣」で織田作之助賞受賞。「ふくわらい」で河合隼雄物語賞受賞。ほかに「さくら」「きいろいゾウ」「円卓」「舞台」など著書多数。