ふるさとに戻り、メニューのない食堂をはじめた倫子。
お客は一日一組だけ。
そこでの出会いが、徐々にすべてを変えていく。
「食べる」ことは愛することであり、
愛されることであり、
つまり生きることなんだって
改めて教えられる素敵な物語でした。
毎日口にするごはんに
こんな物語が詰まっているなんて
気がつかなかった。
これからは大きな声で
「いただきます」と言いたい。
――岡野昭仁(ポルノグラフティ)
内容
そこは食べると願いが叶うという、不思議な料理を出す食堂だった。
失ったもの:恋、家財道具一式、声
残ったもの:ぬか床
おいしくて、いとおしい、大切にしたい物語
同棲していた恋人にすべてを持ち去られ、恋と同時にあまりに多くのものを失った衝撃から、倫子はさらに声も失う。山あいのふるさとに戻った倫子は、小さな食堂を始める。それは、一日一組のお客様だけをもてなす、決まった料理のない食堂だった。
感想
前々から本のタイトルは知っていました。図書館でたまたま文庫本を発見して、あらすじを読むと面白そうなので借りることにしました。私はほのぼとした文体と料理が出てくる小説が好きなのです。
食堂というより多国籍レストラン
インテリアにこだわり開店の準備、季節の食材を集め、時間をかけて調理する姿や料理に合わせた飲み物を選ぶシーンは胸が高鳴りました。食堂というイメージから和食や庶民的な料理を出す飲食店なのかと思いきや、数々のレストランでアルバイトをした経験があるというだけあって、倫子が作る料理は私には馴染みのない多国籍メニューばかりです。食堂かたつむりの記念すべきオープンメニューは「ざくろカレー」。恥ずかしながら、ざくろは赤い果物で酸っぱそうということしか知識がなく、読み終わった後に「ざくろカレー」を検索してしまいした。知らない料理に出会うのは本の醍醐味です。「ざくろカレー」一体どんな味なんだろう?一度は食べてみたいです。
食事中(調理中)は下品な話をしないのがマナー。配慮にかけている描写もあるので、読んでいて不愉快な思いをする人もいるかもしれません。価値観によってはエルメスの話も受け付けないかもしれません。
期待し過ぎてしまったのか、この手の本を読みすぎてしまったのか。
料理は、自分以外の誰かが心を込めて作ってくれるから心と体の栄養になるのだ。という重要な部分にたどり着くまでに主人公の成長が感じられないのが残念でした。
友人を頼ることもなく、無一文になった途端に憎んでいる母親のへそくり目当てに実家へ駆け込みます。実家に居候し、物置小屋、開店資金を借りても母親の有難さもわからず、ケチだと言う甘ったれな主人公の倫子。家を出て10年、25歳の女性とはとても思えません。いつ成長するんだろうとまだかまだかと読み進め、最後の最後にやっと成長します。声が出なくなるほどの繊細な感情を持ち、食材達と言葉を交わせたり、お客様の望む料理を作るのは設定に無理があるのでは・・・。親娘という近い存在だから作者が意図的にそうしているとも考えられなくはないのですが、母親の突拍子もない恋愛展開も組み込まれていること点もあり、ありとあらゆる要素を考えもせずに取り入れてみた結果なのでは勘ぐってしまいます。母親との葛藤というのは女性が主人公の小説だとよくある内容です。私にも経験があり、心情がわかるだけに少々期待はずれでした。
映画化
2010年に柴咲コウ主演で映画化されています。
メルヘン感は強めに感じましたが、ほぼ小説のまま映像化されていると思います。
タイトルからどうしても比べてしまう「かもめ食堂」のおしゃれな雰囲気とは異なる作品です。
食堂かたつむりの料理 ※ネタバレ注意
エルメス
- 天然酵母のパン
熊さん
- ザクロカレー
- アメリカンコーヒー
ザクロをたくさん入れるので、きれいなルビー色をしていて、甘酸っぱい味で、食べるを顎の奥がきゅーんとなる。
お妾さん
- マタタビ酒を使ったカクテル
- 林檎のぬか漬け
- 牡蠣と、甘鯛のカルパッチョ
- 比内地鶏を丸ごと一羽焼酎で煮込んだサムゲタンスープ
- 新米を使ったカラスミのリゾット
- 子羊のローストと野生のキノコのガーリックソテー
- 柚子のシャーベット
- マスカルポーネのティラミス バニラアイスを添えて
- 濃い目にいれたエスプレッソコーヒー
料理で喜怒哀楽を表現したような、甘いものはきちんと甘く、辛いものはきちんと辛い、どちらかというとメリハリの効いた、刺激的な味の献立だった。お妾さんが、きっと今までに食べたことがないような味のご馳走ばかりだ。
桃ちゃん
- ジュテームスープ
どんなに緊張して体を固くしていても、甘酸っぱさに胸焼けしていても、胃にスーッと入るように、スープを作ることにした。入れる食材は事前にあまり考えず、実際にふたりを見てから、インスピレーションで決めようと思っていた。
跡取りさん&先生
ふたりの料理の嗜好を考えると、結局私にはその方法しか思いつかなかった。それは、野菜だけを使ったフランス料理だ。肉や魚を使わないでフランス料理など作れるはずがない、と思われがちだけど、野菜自体に力があれば、野菜をメインにして献立を組むことができる。
保健所の衛生管理課
- ワイワイ丼
熊さんの知り合いの男
- フルーツサンド
- ラプサンスーチョン
フルーツサンドがとても儚げな味なので、メリハリをつける意味でもそのお茶がよかった。クリームが重たく感じられても、ラプサンスーチョンを飲めば口の中や喉をすっきりさせることができる。
梢ちゃん
- ココア
ココアが温めるのを見計らい、最後にたっぷりのはちみつと、隠し味に最高級コニャックを数滴たらす、そして、五分だて程度に泡だてた生クリームを雲のようにそっと浮かべてから、その上に、新鮮なミントの葉っぱを一枚飾った。ミントには、精神を落ち着かせる作用があるから、今の梢ちゃんにはちょうどいい。
六人家族
- お子様ランチ
- バースデーケーキ
私は、ガスレンジの火をフルに使い、ハンバーグとチキンライスとエビフライとかぼちゃのソテーを、ほぼ同時進行で調理した。
ウサギ
- ビスケット
私はこね上がったビスケットの生地を天板の上に薄く広げ、生地の上から乾燥させてあるラベンダーの花を飾りつけた。ラベンダーには、気分が落ち込んだ時にそれを緩和する作用がある。
ネオコン
- お茶漬け
この鰹節さえあれば、なんとか上等なダシが取れるだろう。ダシ汁とご飯で、シンプルなお茶漬けを作ろう。
おかん
- 披露宴の料理
- ウエディングケーキ
- アカシアのお茶
- 引き出物 えくぼ饅頭
色々な土地の料理を食べることで、旅行気分を味わってもらいたいと願っていた。
私
- 野鳥のロースト
- 赤ワイン
たとえちっぽけな幸福でも、食べた後、幸せになる料理を。これからもずっと。作り続けていこう。
(番外編) 同性愛の男性カップル
ボクは、食べ物を食べて欲情するということを、この時初めて知った。彼女の作ってくれた料理は、一言でいうとすごく官能的だった。
未読ですが「食堂かたつむりの料理」という本があるようです。
目次
番外編 チョコムーン
著者紹介
【小川糸(おがわ・いと)】
1973年生まれ。著書に小説「食堂かたつむり」「つるかめ助産院」など。「ツバキ文具店」は2017年本屋大賞第4位。2017年4月にNHKラジオ第1「新日曜名作座」にてラジオドラマ化、NHK総合「ドラマ10」にて『ツバキ文具店〜鎌倉代書屋物語〜』と題し、多部未華子主演でテレビドラマ化。