祝祭の夜には誰も死んではならない。
辻村深月が描く一生に一度の恋。
内容
彼女は復讐のために村に帰って来た――
過疎の村に帰郷した女優・由貴美。彼女との恋に溺れた少年・広海は彼女の企みに引きずり込まれる。待ち受ける破滅を予感しながら…。
湖畔の村に彼女が帰ってきた。東京に出て芸能界で成功した由貴美。ロックフェスの夜に彼女と出会った高校生・広海はその謎めいた魅力に囚われ、恋に落ちた。だが、ある夜、彼女は言う、自分はこの村に復讐するために帰ってきたのだと。村の秘密と美しい女の嘘が引き起こす悲劇。あまりに脆く切ない、恋の物語。
感想
誰が嘘をついている?!
由貴美の復讐の理由、何が嘘で何が真実かを知りたくて1日で読み終わってしまいました。広海に語る由貴美の復讐の理由は釈然とせず、他に何かあるはずだとページを捲っていました。復讐の理由には「だよね」と納得していまします。同じ女だからわかること。広海の母・美津子、幼馴染の門音にも見え隠れする女の怖さと醜さ…相変わらず辻村深月は女の嫌な部分を書くのが上手いです。
でも、本書に限っては広海の父・飛雄が群を抜いて怖いです。問題の中心である(原因といっても過言ではない)飛雄は最初から最後まで人当たりがよく、偉ぶらない控えめな父親、そして村長として貫かれています。
「今のお前の目から見たら軽蔑の対象かもしれない。だけど、何十年かしてお前があの人たちのようになるというなら、その時お前は今の考え方を自然と放棄しているはずだ。自分を軽蔑する子供を未熟だと馬鹿にして、今感じているような躊躇いはきれいさっぱりなくなっている。価値観なんてそんなもんだ」
高校生らしい恋
八歳年上のモデル・女優・歌手。村しかしらないお坊ちゃんの男子高校生はびっくりするほど綺麗な女性にあっという間に虜になります。
「君の鬱屈の仕方、ここにいた頃の私と似てる」
「それ、正解。よかった。広海が頭よくて」
「周囲にぺらぺら話すのなんて、イケてない。この村で孤独でいる人間は、結局、価値観を自分の中でイケてるかイケてないかに求めるしかないんだよね。私もそうだった」
「違う。そう思ってても、声にできる人っていないのよ。よっぽど強く思っていない限り、村と自分は切り離せない。―私たちはね、やっぱり似てる」
初心な男を本気にさせるテクニックは持っていても、その男が守りきれないほど壊れてしまっています。二人とも恋に恋をしています。それが高校生らしいし、失恋したばかりの女性の弱さです。
目次
第一章 祭典
第二章 織場
第三章 復讐
第四章 湖畔
第五章 湧谷
第六章 日馬
第七章 水底
第八章 広海
著者プロフィール
【辻村深月(つじむら・みづき】
1980年山梨県生まれ。
2004年「冷たい校舎の時は止まる」で第31回メフィスト賞を受賞し、デビュー。11年「ツナグ」で第32回吉川英治文学新人賞を受賞。「凍りのくじら」「ロードムービー」「ふちなしのかがみ」「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。」「本日は大安なり」「オーダーメイド殺人クラブ」ほか著書多数。