自分でやってきたことが人生の結果「笹の舟で海をわたる」角田光代

 

 

 

「笹の舟で海をわたる 」角田光代

第35回日本アカデミー賞10冠・井上真央主演「八日目のセミ」、宮沢りえ主演「紙の月」と日本映画のヒット作の原作者である角田光代さんの長編小説「笹の舟で海を渡る」を読みました。

のほほんとした出だしだったので、夫に先立たれた老婦人二人の話がここまで壮大なストーリになっていくとは思ってもいなかったです。戦争終盤から平成の現代までの日本のリアルな一般人の生活がわかるので、祖父母もこのような体験をし、時代の流れを感じたのだろうかと思うと興味深いです。また、自分に今までの人生、これからの人生について深く考えさせられる小説だと思います。

 

笹の舟で海をわたる

笹の舟で海をわたる

 

 

 

あらすじ

終戦から10年、佐織は「疎開先が一緒だった」という風美子に声をかけられる。自分で考えない、決められない佐織に対し、自由奔放で欲しいものは何でも手に入れる風美子はやがて“家族”になる。佐織は疎開先のいじめの仕返しの為に風美子が現れ「家族を乗っ取るのではないか」と恐怖を抱くようになる・・・。

 

バラメータ

恋愛度   ★☆☆☆☆  星1つ

お見合い結婚が主流の時代なんでしょう。

お見合いをしても結婚話になかなか進まなかったり、お断りをしたり・・結婚の価値観は違えど恋愛の価値観はそう今も昔も変わらないように感じました。親の介入具合が現代とは違います。

 

家族度   ★★★★★  星5つ

家族を持たないと親にならないとわからない、芽生えない感情もあると思います。

その親たちと自分は大きく異なる人種なのだろうと思っていた。けれどこのごろ、そんなことはないのだと思うようになった。人種が違うはずがない、けっしてだれにも言えないこだけれど、最近では子どもを殺してしまう母親の気持ちを想像できるようになった。そうするしかないと思い詰めることもあるだろうと、うなずくようになった。

 

友情度   ★★★★★  星5つ

好きとか嫌いだとかという感情では済まされない関係が友人。一緒にいて楽しいだけではなく、嫉妬をすることもあります。

子どもが独立し、夫にも先立たれると血の繋がりのない友人がかけがえのない存在です。

もし風美子が二度と会いたくないとしても、そんなのはいやだ、という気持ちにかわっていた。このまま関係を終えてしまうわけにはいかないのだ。好きだ嫌いだのじゃない、あの人しか、自分にはもう、いないのだ。なぜいっしょにいるのかわからないとしてもそれでももう、何十年もともにすごしてきたのだから。

 

イケメン度 ★☆☆☆☆  星1つ

柊平は親である佐織から見て“親の贔屓目を除いても”イケメンのようですが、佐織の人生を知っている読者からすると“親の贔屓目で”イケメンなんだろうなーと思います。

 

オシャレ度 ★★★☆☆  星3つ

どの時代にも風美子のように目立つ人はいるんですね。いや、風美子は今の時代でもオシャレをし、目立ってます。オシャレで自分の性格を自分の人生を表しているようにも感じます。

その派手な目鼻立ちも、雑誌に出てくるような格好も、佐織は見慣れてしまってなんとも思わないが、たしかに、白いパンタロンにオレンジ色のコートを羽織り、頭にスカーフを巻いた風美子は、このあたりでは目立つだろうと、母親たちの遠慮のない視線で気づく。 

 

グルメ度  ★★★★☆  星4つ 

料理家の風美子は佐織の家でいつもパパッと料理を作ります。料理が苦手な私としては関心するばかりです。自分が作るだけでなく、美味しそうなレストランも知っており、日本ではまだ珍しかったファストフードも積極的に食べています。 

 

感想

陰湿ないじめがあったことなど、だれひとり覚えていなかった。いや、正確にいえば「覚えていない」と答えた。

私自身の過去の記憶に自信がもてなくなりました。私の学校にも一人か二人くらい不登校の生徒がいました。いじめだったのだろうか、それとも他の原因があったのだろうか・・・当時もよくわからず、今もやっぱりわかりません。誰かを無視する、誰かの噂や悪口は学生時代当たり前のようにあった(社会に出てもありますが)、誰もがいじめ側でもあり、いじめられていた側でもあったように思うのは、都合の良いことしか覚えていないから思うことなのかもしれません。

みんなが離れていくのも、人生が思い通りに進まないのも、この人のせいなんかじゃなかった。何か決めるたび、何か選らぶたび、何かしなくてはいけないたび、変えなくてはいけないたび、私はあの、本来の私とは隔たった幼い子どもに押しつけてきたのだ。思考を停止し、何も決めず何も考えず、じっと眺めていることを、あの子にさせてきたのだな。今の私の人生を作っているのは、あの、貧しくて弱い女の子だ。

自分の人生が不幸なのは親や子ども、夫や妻のせいにすることはよく聞きます。私も10代の頃、うまくいかないことを全て親のせいにしていました。家庭環境がよくないから自分はこんな状態にあるのだと・・・佐織の場合は友人である風美子に対し、人生が巻き込まれていると感じています。60歳を超え、自分で人生を決めるということを知る佐織に辿り着くまで、イライラしてしまうこともあるのですが、自分で人生を決めないで人生を終える人もいるのだと思うと最後は佐織のこれからの人生を応援したくなります。