高校生の頃、周りの本好きの男女はみんな江國香織さんが大好きで、よく本の貸し借りをしていました。お気に入りの何冊かは自分で文庫本を購入し、今でも繰り返し読んでいます。その中の一冊が「きらきらひかる」です。
第2回紫式部文学賞受賞
あらすじ
アルコール依存症の妻・笑子と同性愛者の夫・睦月、夫の恋人・紺の奇妙な三角関係の生活が描かれています。ドロドロとした昼ドラのような話ではなく、三人が三人ともお互いを深く想い合っていることが伝わる爽やかでゆったりとした雰囲気の小説です。
目次
1 水を抱く
2 青鬼
3 きりん座
4 訪問者たち、眠れる者と見守る者
5 ドロップス
6 昼の月
7 水の檻
8 銀のライオンたち
9 七月、宇宙的なるもの
10 親族会議
11 星をまくひと
12 水の流れるところ
バラメータ
恋愛度 ★★★★★ 星5つ
この小説を初めて読んだ高校生の頃、まだ社会を知らない小さい世界で生活していたので、同性愛者は“銀のライオン”のようにだと思っていました。特殊な感情を抱いていると思っていたのです。
当たり前ですが、同性愛者だからといって、相手に対する愛情が異性愛者と違うわけではないのです。同じ恋愛です。
12 水の流れるところ
そしていきなり、紺が僕の顎を殴ったのだ。遠慮のかけらもない殴り方だったので、僕は机に倒れこんで書類の山を床にぶちまけた。
「そんな風に相手を追いつめるなら、睦月は笑子ちゃんと結婚なんかするべきじゃなかったんだよ」
紺らしくない、感情的な口調だった。笑子ばかりじゃなく紺もずっと苦しめていたのだというあたりまえの事実に、僕はそのときはじめてほんとうに思い至った。
友情度 ★★☆☆☆ 星2つ
睦月を好きな者同士の紺と笑子には友情が芽生えていきます。
睦月の奪い合いにならないのが、この小説の好きなところです。
9 七月、宇宙的なるもの
「でも、妻って女なのよ」
紺くんは驚くほど真剣な顔をした。うん、そうだね、男の妻っていうのはみたことがない。
「でも、僕は男が好きなわけじゃないよ。睦月が好きなんだ」
あっさりと、涼しい顔で紺くんは言う。
「ふうん」
私は胸がざわざわした。それじゃあ私とおんなじだ。
家族度 ★★★☆☆ 星3つ
私も言いたくないもないことをつい主人に口走ってしまう時があります。
夫婦だからこそ、残酷な気持ちになってしまうのです。そして、夫が優しければ優しいほど自己嫌悪に陥ります。
5 ドロップス
睦月に対してとても残酷な気持ちになるのだ。とがった皮肉や意地の悪い冗談で、一日に何度も、睦月を傷つけてしまう。
イケメン度 ★★★★★ 星5つ
睦月のような男性が好きです。
男性が好きで自分に振り向いてくれない存在だからかもしれません。
女性に不器用、とてつもなく優しいところが特に。
7 水の檻
車の中でも、私はずっと寝たふりをしていた。睦月は何も言わなかったけれど、ちゃんと私の好きなカセットをかけてくれた。
オシャレ度 ★★★★★ 星5つ
江國香織小説に登場する人物たちの生活感が私は好きです。とても丁寧に生活をしている気がするし、清潔感が漂っています。特別な様子はないのにどこか非現実的で憧れます。
3 きりん座
目が覚めると九時十五分で、睦月はもうでかけたあとだった。パジャマのままリビングにくと、コーヒーの匂いがする。清潔な室内には加湿器がことことと音をたて、リプレイボタンを押してセットされたCDが三枚、耳障りでない程度のボリュウムで流れている。
グルメ度 ★★★★☆ 星4つ
江國香織小説を読むと大概オシャレなカクテルのお酒を飲みたくなります。大人になったら、きっと私も飲むのだろうと思っていました。
家でお酒を飲む習慣もなければ、バーなどに行く機会もない私には未だにお酒は憧れの存在です。十分大人になった今もあの頃と変わらず、お酒よりドーナッツだとかの甘い物にそそられています。
3 きりん座
「ショーコちゃん。ほら、君の好きなフリージアとシュークリームだよ」
モロゾフのミニシューだ、と夢の中で私は思った。
「何味?」
昔の恋人はにっこり笑う。
「もちろん、きみの好きなコアントロー味さ」
コアントロー味! 私はすっかりうれしくなった。
感想
江國香織さんの小説を何度も繰り返し読むほど好きな理由は登場する人物たちに生活感があるところです。朝は起き、仕事をし、食事をし、夜には寝ます。友人とも家族とも過ごす。そして、恋愛をする。人間が生きている、過ごしているということがきちんと丁寧に描かれています。小説なので、ちょっとした出来事が起こるのだけれど、それは現実離れしていることではなく、現実にありそうな出来事です。自分にもいつか起きそうなこと・・・いつか起きないかなと想像するのも楽しいです。
関連作品
「ぬるい眠り」江國香織
「きらきらひかる」の笑子と睦月、紺の10年後が描かれた「ケイトウの赤、やなぎの緑」が収録されている短編集です。